正しい意思決定を阻む“認知バイアス”と一緒に学びたいプロスペクト理論とは

認知バイアス(英語:bias)とは、心理学的に「偏見」「先入観」「思い込み」などと定義され、物事を決める際に正しい意思決定を阻む認知バイアスという“人間の意思決定のクセ”があります。
伝統的な経済学では、人間は得られる情報を最大限に用いて、もっとも合理的な意思決定すると考えられてきました。
でも実際には、バイアスによって正しい判断をすることが稀なくらい、人間は合理的な判断とは程遠い意思決定をしてしまいます。
それは“人間の意思決定のクセ”によって、自分に都合の良い情報や先入観を裏付ける情報ばかりを集積して、自分の意見に反する情報を軽視することで確かな情報が歪められることで起こります。
もっとも合理的な意思決定をするためにも、陥りがちな認知バイアスという“人間の意思決定のクセ”があるということを理解しておく必要があります。
問題1
A、今すぐにもらう1万円
B、1週間後にもらう1万100円
Aの「今すぐにもらう1万円」を選ぶ人が多くいます。
問題2
C、1年後にもらう1万円
D、1年と1週間後にもらう1万100円
Dの「1年と1週間後にもらう1万100円」を選ぶ人が多くいます。
1週間後に100円が増えるという共通点があります。
1週間待てば100円増える訳ですから、本来“もっとも合理的な意思決定する”ということであれば、問題1でBの「1週間後にもらう1万100円」を選んだ人は、問題2ではDの「1年と1週間後にもらう1万100円」を選ぶのが合理的です。
実際には、多くの人が問題1で、Aの「今すぐにもらう1万円」を選び、問題2でDの「1年と1週間後にもらう1万100円」を選んでいます。
この意思決定は、行動経済学では現在バイアスによって目の前の利益が多く感じてしまうために、問題1ではBの「1週間後にもらう1万100円」を選んでしまうという説明ができます。
現在バイアスとは
将来得られる利益は少なく感じる傾向があり、目の前の利益は多く感じる傾向
(将来は、抽象的に。現在は、具体的に感じる傾向)
このように人間には、物事を決める際に正しい意思決定を阻む様々な認知バイアスという“人間の意思決定のクセ”があります。
もっとも合理的な意思決定をするために、いくつか代表的なものをご紹介致します。
プロスペクト理論
プロスペクト理論はカーネマンとトベルスキーによって提唱された理論で、リスクに対する“人間の意思決定のクセ”には、確実性効果と損失回避があります。
問題1
A、80%の確率で3万円当たるクジ
B、100%確実に2万円当たるクジ
Bの「100%確実に2万円当たるクジ」を選ぶ人が多くいます。
問題2
C、20%の確率で3万円当たるクジ
D、25%の確率で2万円当たるクジ
Cの「20%の確率で3万円当たるクジ」を選ぶ人が多くいます。
この意思決定は、行動経済学では“確実性効果”によって80%など確率の高いものを本来の数値より、より弱く感じてしまうために問題1ではBの「100%確実に2万円当たるクジ」を選んでしまい、20%など確率の低いものを本来の数値より、より強く感じてしまうために問題2ではCの「20%の確率で3万円当たるクジ」を選んでしまうという説明ができます。
確実性効果とは
80%など確率の高いものを本来の数値より、より弱く感じる傾向があり
20%など確率の低いものを本来の数値より、より強く感じる傾向を言います。
問題3
E、じゃんけんをして勝ったら2万円もらい、負けたら何ももらわない。
F、じゃんけんをせずに確実に1万円もらう。
Fの「じゃんけんをせずに確実に1万円もらう。」を選ぶ人が多くいます。
問題4
G、じゃんけんをして負けたら2万円払い、勝ったら何も払わない。
H、じゃんけんをせずに確実に1万円払う。
Gの「じゃんけんをして負けたら2万円払い、勝ったら何も払わない。」を選ぶ人が多くいます。
本来リスクを回避しようとする者であれば、問題3ではFの「じゃんけんをせずに確実に1万円もらう」を選び
問題4ではHの「じゃんけんをせずに確実に1万円払う。」を選択するはずですが
実際には、問題4のような“損失が発生する局面”ではリスクのあるGの「じゃんけんをして負けたら2万円払い、勝ったら何も払わない。」を選んでいます。
問題5
あなたが30万円の報酬をもらえる日です。選択肢によって報酬が変わります。
I、じゃんけんをして負けたら28万円、勝ったら30万円のまま。
J、じゃんけんをせずに確実に29万円。
問題4は、損失表現。問題5は利得表現で書かれているという違いがあります。
問題4と問題5は、本質的には同じであるにも関わらず、問題4でGの「じゃんけんをして負けたら2万円払い、勝ったら何も払わない。」というリスクのある選択をした人も、問題5ではJの「じゃんけんをせずに確実に29万円。」を選ぶ人が出てきます。
この意思決定は、行動経済学では“損失回避”によって少しの損失でも本来の数値より、より強く損を感じてしまうために利得表現で書かれている問題5ではJの「じゃんけんをせずに確実に29万円。」を選んでしまうという説明ができます。
損失回避とは
損失の場合は、少しの損失でも本来の数値より、より強く損を感じてしまう。
人間は、得するより損失を大きく嫌う傾向を言います。
フレーミング効果とは
このように確実性効果や損失回避によって、同じ意味合いや同じ価値であっても表現方法が異なるだけで人間の意思決定が異なることをフレーミング効果と言います。
例えば
K、80%の人がダイエットに成功している会員制フィットネスジム
L、20%の人しかダイエットに失敗していない会員制フィットネスジム
Kでは、80%の人が「入会してもいい」と答えましたが、Lでは50%の人が「入会してもいい」と答えました。
プロスペクト理論とは
人間は利益を得る局面では“確実に手に入れること”を優先し、損失が発生する局面では“損を最小限にすること”を優先する傾向があるという理論です。
プロスペクト理論に“人間は、利得よりも損失を2.5倍くらい大きく感じる”とあります。
“人間は得するよりも、損をしたくない思いが強い”と感じる傾向があるという理論です。
[プロスペクト(Prospect)は、見込み・見通し・展望・期待・予想といった意味があります。]
現状維持バイアスとは
現状を変更する方が、より望ましい場合でも現状の維持を好む傾向
現状を参照点(基準となる点)としてしまい、そこから変更することを損失と感じる損失回避のバイアスにより現状のままという選択をしてしまう傾向
感情バイアスとは
自分が心地良くなる事柄を信じたがり、自分にとって好ましくない事柄や厳しい事柄は受け入れようとしない傾向
バーナム効果とは
誰にでも当てはまるようなことを、あたかも自分に当てはまると感じてしまう傾向
占い師さんがコールドリーディングと合わせてよく使う手法ですね。
言われた方は、見抜かれたとか自分のことを理解してくれていると勝手に思い込んで、信用してしまうので注意が必要です。
アンカリング効果とは
最初に与えられた数字(アンカー)を参照点(基準となる点)としてしまい、その数字に意思決定が左右されてしまう傾向
自分で選んでいると思っていることも、実は参照点に影響されているということ
保有効果とは
1度保有した物を手放すことや環境が変化することを損と捉えてしまう傾向
損と捉えてしまうと“プロスペクト理論の損失回避”が発生し
保有している時は、1万円の価値のはずが、手放すとなると2.5万円以上でないと損した気持ちになるので
結果的にそのまま保有していたい(手放したくない)という意思決定をしてしまいます。
ハロー効果とは
何かを評価する際に、目立ちやすい特徴によって、全体の評価まで変わる傾向
ポジティブハロー効果は、特定の評価が高いと全体の評価も高くしてしまう効果があり、
ネガティブハロー効果は、特定の評価が低いと全体の評価まで低くなってしまう効果があります。
[ハローとは、絵画で聖人やイエスキリストの頭上や後ろに描かれている後輪です。]
代表性ヒューリスティック(英語:Representative Heuristic)とは
似たようなカテゴリーの中で代表的なイメージに結びつけ、統計的な根拠を無視して、経験則でもっともらしい意思決定をしてしまう傾向
(代表性バイアスとハロー効果に似ている)
[ヒューリスティックとは、必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い答えを得ることができる方法]
利用可能性ヒューリスティック(英語:Availability Heuristic)とは
知り合いの口コミなどの身近な情報や即座に思い浮かぶ知識だけをもとに意思決定をしてしまう傾向
ピークエンド効果とは
ある出来事を経験した際に、記憶の中で良くも悪くも一番印象的だったことと、その出来事の終わりがどうだったかで出来事全体の印象を決める傾向
自己肯定バイアスとは
自分と同じ意見を持つ人を好み、賛成意見にばかり注目して反対意見を軽視する傾向
フレーミング効果とは
同じ意味や価値のものでも、表現方法によって相手の意思決定が変わってしまう傾向
“人間は、利得よりも損失を2.5倍くらい大きく感じる”(プロスペクト理論)を活用することで意思決定を誘導することも可能です。
確証バイアスとは
自分に都合の良い情報や先入観を裏付ける情報ばかりを集積して、自分の意見に反する情報を集めようとしない傾向
代表性バイアスとは
物事を判断する際に、統計的な根拠よりも代表的なイメージに影響されて判断してしまう傾向
観察者バイアスとは
人や物を評価する際に、自分が期待することばかり評価の対象として、それ以外のことは評価を低くしてしまう傾向
内集団バイアス
内集団(自分が所属する集団)を他の集団よりも高く評価する傾向
または、外集団(自分が所属しない集団)を不当に評価してさげすむ傾向
評価の高い集団に属する人を、高く評価してしまう傾向
まとめ
自分に都合が良い方向に解釈を歪めてしまい、正しい判断をすることが稀なくらい、人間は合理的な判断とは程遠い意思決定をしてしまいます。
もっとも合理的な意思決定するためにも、私たちはバイアスという色眼鏡で物事を見てしまう傾向があるということを自覚する必要があります。